「ともだちだから、けんかするんだぜ」
そんな言葉を、昔のころりん子が言ったそうです。
そしてそれは、今ころりんに通っている子どもも一緒です。ころりんの伝統になっている「けんか」というコミュニケーション。
子どもが子どもらしく過ごしているからこそ、お互いに譲れない想いがあるからこそ、ぶつかるんですよね。
怒るべき時に怒らなければ人間の甲斐がありません、と言った作家が在りましたが、本能で生きる子どもたち、魅力的です。
さて先日、近所のレクリエーションセンターという山に登った時のことです。
きじ組のTくんが先頭を歩き、そのすこし後ろをきじ組のMくんが歩いています。
女の子10人、男の子3人のクラスなので貴重な男仲間ですが、
実はこの2人、3年間同じクラスでもまだ一度もけんからしいけんかをしたことがないのです。
お茶休憩の後、また歩きだすと、さっとMくんが先頭を歩き出しました。
それをみて「ずるいよ!さっきと同じ順番だよ!」とMくん。
しばらく聞こえないふりをして歩くTくんでしたが、「Tが前だよ!!」というTくんや他の女の子の声に立ち止まりました。
そして、「ううー」とTくんをにらみながら、うなっています。
今までだったら、Mくんはいつもうなってお終い。怒りは自分の中に留めておくだけで、相手にぶつけるところまではいきませんでした。
しかし、この時は違いました。
Mだって言いたいことがあれば言っていいんだぞ、と声をかけるやいなや、ザッ、と地面を蹴りTくんの方へ走り出しました。
そしてそのまま猛アタック!!身体ごとぶつかっていきます。
すかさず応戦するTくん。2人共リュックを背負ったまま、山道の途中でぶつかり合います!
「みんなケンカだ~!!ケンカが始まったぞー!!」という声に、他の子たちもすかさず応援をはじめます!
「頑張れー!!」 TくんとMくんはパンチ、キック、タックル、のしかかり、負けないという気持ち、自分が持つ全部の力を振り絞り、泥だらけになりながら戦っています。
しかし、ここは山道。
職員2人で崖側と山側を守り、2人が落っこちないように、木や植え込みに突っ込まないようにガードします。
しかしそれでも足りず、見ている子どもたちに「誰かリュック貸してくれる人ー!!」と言うと、みんな「これ使ってー!」と自分のリュックをクッション代わりに貸してくれます!
さらに応援している方もボルテージが上がってきたのか、Nちゃん「ああ!!なんだか私も闘いたくなってきた!!私も混じっていい!?」
あ、いやいや(笑)
ごめんNちゃん、これは2人のプライドをかけた闘いなんだ(^_^;)
するとそこへ、杖をついたおばあちゃんが歩いてきます。
職員「すみません、こんなところで」
おばあちゃん「いいのよぉ、元気があって良いわぁ」
と歩き去っていきます。
2人は顔も身体も土だらけ、Tくんは無言で、Mくんは気合の声を入れながらお互い全く譲りません。
他の子達は遊んでは応援し、応援しては遊び、どちらかの応援が多くなると、かわいそうだからと反対の子の応援をしてくれます。
そこへやってきたのがまたまたおばあちゃん。
職員「まだやっててすみません!!」
おばあちゃん「いいのよぉ、思い切りやれるわねぇ、ここなら」
さすが肝が座っていらっしゃいます。見守って下さることがどれだけありがたいか。
そしてどれだけ闘っていたでしょうか、けんかが始まってから30分程が経ちました。
パンチが顔に当たっちゃっても、キックが顔に当たってしまっても、泣かずに、めげずに、お互い一切引かない勝負を繰り広げてきた2人。
やがて、その勝負にも終わりの時がやってきました。
Mくんが下になった時、口の中に溜まっていたつばが喉に入り、むせ込み、ごほごほっ、とつばを吐き出しました。
Mくん、実は山登り中も咳が出ていたのですが、ケンカ中は咳もせず無言で、我慢して闘っていたのだと思います。
そして苦しそうにむせこんでる今、長い長いけんかがようやく着地しました。
今日、たまたま起こったけんかではありません。
2人の3年間の関係、過ごした時間、プライド、言えなかった色々な想い、伝えたかった気持ち、そういったものが全て詰まった、全てをかけてぶつかった、熱い、熱いけんかでした。
冒頭の「ともだちだから、けんかするんだぜ」という言葉を思い出しました。
2人はこのけんかをして、本当の友達になった。
ただの同級生から友達という仲間に関係が変わった、と言えるのではないでしょうか。
その後のTくんとMくんは自然と一緒に遊ぶ機会が増え、お互いに一目置く存在となっています。
ぶつかっても、仲直りできる。相手の譲れない想いを身体中、心で感じる。痛かったんだな。
こんなに嫌だったんだな。
あいつ、つええな。
すげえな。
俺たち、もう友達だよな。
…言葉では交わせない気持ちの交換を交わした2人。本当、かっこいいです。
子どもたちの本気のぶつかり合い。
自然に湧き上がる気持ちを、大人が見守る中で出させてあげる。
教育・保育の場で、大人がいる中でその姿を認められるからこそ、子どもたちは他で隠れてやらずに済むんですよね。
そして、こんなけんかが出来るのも、幼児期の今だけ。
ころりんという場だから許される子どもの自由。そんな想いが頭をよぎる昨今の教育・保育事情、子ども事情ですね…
苦しい子ども時代を過ごす子が多い中、せめてころりん村では自由の空気をたっくさん吸って、大きなあたたかさを持った人に成長していってほしいと願っております。
ころりん村幼児園 副園長 田村玄記