きじ組 保育の広場

平成26年10月

運動会のリレーのチーム(青組と黄色組)を発表してから2日目のことでした。青のAくん、明らかに走りに気迫がありません。以前一緒に走って勝ったBくんにぐんぐんと差をつけられていきます。体調が悪い訳でもなし…「Aくん、行けー!!」と声をかけますがスピードは上がらず、バトンパスの時わずかに勝っていた青でしたが、終わってみると半周以上の差をつけられて負けてしまいました。悔しそうな青の面々…。特にアンカーのCくんは泣きそうなのをぐっとこらえ「Aが本気出さなかったから負けたんだ」と一言しぼり出しました。それに続いて他の子も「Aのせいだ」と続きます。…難しいです。誰にも得意・不得意があるもの。特に運動に関してはコンプレックスに感じている方も少なくないのでは。興味がない事に気持ちが入っていかないのもわかる。ましてや何日も走っていて嫌になってしまっているかも。あわててAくんをフォローしようとしたその時、

「あのね、Aのせいにして怒ってる訳じゃなくて、私はなんでAが本気を出さなかった知りたい。心配なの」

と黄色のDちゃん。

もも「…あのさ、なんでみんなはAが本気じゃなかったって思うの?」
子「真剣な顔じゃなくてニヤニヤ笑ってた」「前はA、もっと速かった」「この前なんかBくんに勝ってたよ!!」「あの時のA、すっごい速くてすっごいいい顔ですっごいかっこよかったから!!」「私あの時すごいうれしかったんだ」「オレもAの真剣な顔みた時なんかすげーうれしかった!」Bくん「この前は一緒に走って楽しかったけど、今日は勝負が決まっちゃってるみたいでつまらなかった」「Aの本気がもう1回見たい」「Aならできる!!」「私、Aのこと信じてるの」
…厳しくもあたたかい子どもたちの本音。

…「あのさ、なんでAは今日、本気じゃなかったの? 疲れちゃった?」
Aくん「…(首を横に振る)」
「じゃあどうしてだろう…、やりたくない?」
Aくん「…(うなずく)」

「そっかあ…」「でもAがいないと "きじのリレー" じゃないよ」「Aはいつも良い意見言ってくれてたよね!」「Aがいないとつまらない」「A、一緒にやろうよ」「Aがいないリレーなんて嫌だ」「Aがいないとさみしい」「Aがいないと生きていけないよ」…
「なんでやりたくない? この前まで楽しそうにやってたじゃん?」
Aくん「…だって…負けるの嫌だから」
「確かに。負けるのって嫌だよね」「でもさぁ、だったら本気出せばいいんだよ!」「負けるって思うから負けちゃう」「勝つって信じるときっと勝てるよ」「大丈夫だよA!!」「私たち(青組)もがんばるから!!」「A、一緒にやってみようよ」「最後の運動会なんだよ」…
子どもたちの叱咤激励は30分に渡り、そして最後にはいつのまにか「A! A! A! A!」とAくんの名前の大合唱が園庭にひびいていました。

…子どもたちにとって足の速さ、遅さは全く問題ではないのです。大切なのは "本気" ということ。リレーという真剣勝負を通して、子どもたちは心と心を本気でぶつからせていたのです。上辺だけ取りつくろおうとした自分がなんだか情けなくなりました。Aくんのことが本当に大切だからきっと子どもたちもAくんと本気でぶつかり合いたいのでしょう。本気で悔しがって喜び合って、したいのでしょう。Aくんとみんなだからこの話し合いは生まれたのです。子どもたちは私たち大人が思うより、ずっとずっと深い所でつながり合っていました。つながり合おうとしていました。全部子どもたちの言葉です。同じチームの青組も勝った黄色組もみんなが、みんながAくんのことを想っていました。子どもってすごい。本当にすごいです。

…お昼をはさみ、もう一度リレーをやることになりました。
結果は…青の勝ち!
「負けちゃったけど、Aが走ってくれてうれしかった!」と黄色組。
「勝って良かったね! A!!」と青組。
「みんな、ありがとう!」とはずかしそうにうれしそうに言うAくんの顔がキラキラと輝いていました。

もも

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